最近はまっているアイルランドの歌手と、読んだ本『勝手にふるえてろ』(綿矢りさ作) のこと

最近はまっている歌手と読んだ本のことを書く。

 

◇とにかく幸せそうに歌うところが好き

最近youtubeではまっている歌手がいる。アイルランド出身歌手のOrla Gartlandさん。

youtubeチャンネル: https://www.youtube.com/user/MusicMaaad )

ギターを片手にアコースティックな演奏をする。彼女のオリジナルな曲のときもあるし、カバーのときもある。けっこう昔の渋い曲をカバーしているので、ああ、少し熟練した歌手なのだろうな…とか思っていたらなんと1995年生まれ…!!!!年下ではないか!!!と、それは腰を抜かすほどの衝撃であった。

年齢はただの数字ではあるがしかし、彼女の表現力の安定感とカバー曲の完成度の高さを考えたとき、年下であることにひどく驚いてしまった。

彼女のビデオを見ていて思うことは、彼女が本当に楽しそうに演奏をしていることである。それはもう、歌がうまいんだなとか、プロなんだなとか、そんなレベルの印象ではない。生きる喜びそのものが、彼女にとっては歌なのだ、ということが映像から滲み出てくる。少なくとも私にはそう見える。特に個人的に好きで、おすすめしたい動画は、Fleetwood macの1987年の代表曲のひとつ、”everywhere”を、森の中でカバーしているところである。

 

https://youtu.be/UPbeGd-GszA

 

 

水の流れる音や森の音を背景にして、実に開放的にのびやかに歌う彼女に一瞬でとりこになる。そして、音楽でもなんでも、自分が愛する何かをしているときの人の姿は特に美しいのだと強く気づかされる。それをたしかめるためにくりかえし再生してしまう。とにかく幸せそうに歌う姿がまぶしすぎる。

彼女のただただ歌う姿は、生き方に悩む人の目の前にぶらさげられるあらゆる類の啓発書や理屈を押しのけ、ただ単純に癒してくれるし、大切にしたい感情ってこれだったよね、と感じさせてくれる。

 

 

 

◇最近読んだ本『勝手にふるえてろ

綿矢りさの代表作。私はなぜ今までこれを読まなかったのかと悔やまれる。でも叶わない片思いをしていたときにこれを読んでいたらけっこうきついかもしれないとも思った。

◇あらすじ
ヨシカは、中学から片思いしている一と、会社の同僚で、ヨシカに好意を寄せるニのあいだで揺れ動く。彼女は自分が処女であることをコンプレックスに思っている。片思いのイチの誇大妄想を常に脳内で繰り広げる。いわゆる「こじらせた」女子である。アンモナイトが好きで、経理の仕事をしている。とにかくイチのことが好き。けれども、ニと接する中で、イチカの心は変化する。

 


「初めて付き合うのは好きな人って決めてた。自分に嘘をつきたくないし、逆に好きじゃなきゃ付き合えないし。(中略)初恋の人をいまだに思っている自分が好きだった。でもいまニを前にして、その考えが純情どころかうす汚い気さえする。どうして好きになった人としか付き合わない。どうして自分を好きになってくれた人には目もくれない。自分の純情だけ大切にして、他人の純情には無関心だなんて。ただ勝手なだけだ。」(本書より引用)

彼女の頭の中のみで進行していた一との恋愛、というか妄想の世界が、だんだん薄くなってゆく。

彼女は二のきもちを受け入れようとする中で、相手の好意を受け入れることは「あきらめの漂う感情とは違う」のであり、「自分の愛ではなく他人の愛を信じるのは、自分への裏切りではなく、挑戦だ。」と強く宣戦布告する。それは自分への挑戦なのだ。

本作の中のあらゆる比喩表現(処女を喪失することについての比喩とか、ニがキスしようとしたときの発情している雰囲気の比喩とか)も見事だけれど、この文を読むためだけにこの物語を読み進めてもいい。

ヨシカのこじらせっぷり、自分が恋愛経験がないがゆえに悪戦苦闘して、会社の人にも「そこまでする?」と思う嘘(ネタバレになるので内容はぜひ本編を)をついてしまうところとか、ああ、その気持ちはとても分かるよ、そこまではしないけど…と思ったりした。

不安定でぶわんぶわんと気持ちは揺れ動くけれど、けして折れはしない弾力さみたいな感情をもつヨシカの描き方が秀逸、やっぱり綿矢りさすごい。

 

参考:『勝手にふるえてろ綿矢りさ、2012年、文藝春秋